始まりは突然だった

わたしは8年前まで、れっきとしたジャニヲタであった。MYOJOやDuetやPOTATOなんかのアイドル雑誌は毎月欠かさず買っていたし、土曜日に放送される少年倶楽部を楽しみに一週間を乗り切っていた。ファンクラブにも入り、何度かコンサートに足を運んだこともある。当時のわたしはKAT-TUNの中丸くんが大好きだったけど、中丸くんの次ぐらいに加藤成亮が好きだった。なのでNEWSのコンサートにも何度か参加したことがある。他のメンバーには目もくれず、3時間弱のコンサートの間ひたすら加藤成亮を目で追っていた。すごくすごく大好きだったけど、当時の加藤成亮はなんだか非常に残念なキャラ付けをされていて、友人に「NEWSの中ならシゲちゃんが一番好き!」と言おうものなら十中八九「はっっっ!?シゲ!?!?!?!?」と指をさして爆笑されたものだ。今思い出しても、わたしの友人たちの間での加藤成亮の扱いはなかなかに悲惨だった。CDやDVDは予約して買った。少ないバイト代のほとんどをジャニーズに注ぎ込んだ。同級生の女の子たちはそんなわたしの姿をネタにして笑ったが、わたしは毎日が本当に幸せだった。しかし不思議なもので、高校を卒業する頃にわたしはジャニヲタも卒業してしまった。あんなに大好きだったのに、割とあっさりと。大きな切欠は、多分なかったと思う。ただ、高校生という枠組みを外れて少し自由になって、彼氏が出来たりお洒落をしたり夜遅くまで遊びに出かけたりするようになって、なんとなく「ジャニーズはもういいかな」と思ったのだ。それからはジャニーズのCDやDVD、アイドル雑誌は一度も手に取っていない。唯一、専門学校で同じクラスになって仲良くなった子がエイターだったので、彼女から「今度コンサートがあるよ~」とか「新しいアルバムが出たんだ~」なんて話を聞いて、わたしはその度に「へえ、そうなんだ~」と返すぐらいだった。あ、嘘。エイトレンジャーの映画は誘ってもらって一緒に見に行った。おもしろかった。

そして先日、26歳の誕生日を迎えたその朝に夢の中にNEWSの増田くんが出てきた。なぜ増田くんだったのかは分からない。夢の中でわたしと増田くんは付き合っていてすごくラブラブで、更に増田くんはわたしに向かってプロポーズまでしていた。テレビドラマなんかでよく見る、跪いて指輪の入ったケースをパッカーンと開くアレを披露していたのだ。目覚めた瞬間から、わたしの頭の中は増田くんのことでいっぱいだった。その日は仕事中も夢の中の増田くんの姿を思い出してはニマニマしていた。あんまりにもニマニマしていたので職場の先輩に「何かあった?」と聞かれ、夢のことをバカ正直に話した。今思えばアホだ。26歳にもなって痛すぎる。しかしその時のわたしは頭の中にお花が咲き乱れていたのでそんなことにも気付いていなかった。単純なわたしはその日の帰り道、NEWSとテゴマスのアルバムを借りてみた。NEWSのベスト盤と最新アルバムのNEWS、そしてテゴマスの青春とテゴマスのまほうの4枚を。

CDを借りて家に帰って、まず最初にNEWSのベスト盤を聞いた。Disc1を再生する。一曲目、スピーカーから流れ出したNEWSニッポンのイントロを聞いた瞬間、すごく懐かしくなった。ジャニヲタを卒業してからも、付けっぱなしにしていたテレビから流れるものや友達と行ったカラオケBOXで何度も何度も耳にした曲のはずなのに、「自分で聞く為に、自分で手に取り、自分で再生した」というだけでなんだかすごく特別に思えた。ベスト盤なので、流れてくるのはどの曲も耳にしたことがあるものばかりだ。久しぶりにNEWSの曲をちゃんと聞いたが、どれも耳にすっと入ってきた。そしてDisc1を全曲聴き終え、次はDisc2を再生する。Disc2にはファンの投票で選ばれた人気上位15曲が収録されているようだ。1stアルバム「touch」までしか聞いてないので、こちらは初めて聞く曲ばかりだった。そんな中、聞き覚えのあるイントロが。すぐに分かった。I・ZA・NA・I・ZU・KIだ。わたしがジャニヲタ全盛期だった頃の曲である。このあたりから完璧に気持ちが8年前に戻っていた。8年間の空白を埋めるべく、アルバムをBGMに文明の利器を使い今の彼らに関する情報を漁りまくった。そしてDisc2最後の曲が終わる頃にはわたしはひとつの決意を胸にしていた。そうだ、NEWSのコンサートDVDを買おう。そんな決意だ。

そこでアマゾンのレビューをくまなく読み、2012年に行われた「美しい恋にするよ」というツアーDVDのレビューがとてもよかったことからこれを買うことにした。それと同時に、せっかくなのでもう1本ぐらい何か一緒に買っちゃおうかな!?送料かからないしいいかな!?と思った。しかし、これまでにリリースされたDVDの中からどれを選べばいいか分からずに結局その日はあれじゃないこれじゃないとうんうん唸りながら眠りについた。次の日になっても、その次の日になっても、やっぱりどれを買うべきか分からずにうんうんと唸っていたところ、わたしは思い出したのだ。そう、エイターである友達の存在を。この友達のことはエイコちゃん(仮)とでも名付けておこう。エイコちゃんとは卒業後もしょっちゅう遊んでいて、カラオケに行く度に彼女はエイトだけじゃなくてNEWSやKAT-TUNの曲も歌っていた。聞けば何か良い情報を教えてくれるかもしれない。昼休みになり、わたしは早速エイコちゃんにラインを入れた。「なぜか今更NEWSにハマりそうなので、お勧めのDVDがあったら教えてください」そう送るとすぐに既読が付いた。エイコちゃんは「何で今NEWS!?」と驚きつつも、「NEWSファンの友達に聞いてみるのでまた連絡するね」と言ってくれた。そしてその日の仕事終わり、エイコちゃんから再びラインが。「小山担の友達に聞いたら、一番のお勧めは美恋魂だけど6人のときのでも構わないならパシフィックっていうやつもおもしろいらしいよ」とのこと。ふむふむ、パシフィックね。お礼と共に「ジャニヲタに戻ったら鼻で笑ってくれ」と伝え、わたしは仕事帰りのその足でCDショップへ向かった。残念ながら出向いたCDショップには「美しい恋にするよ」は置いてなかったのでお勧めされた「パシフィック」だけ購入してみた。

家に帰り着替えを済ませ、晩酌用のビールとつまみを用意して万全の態勢でDVDを再生する。照明を落とした会場、やがてスクリーンにメンバーの姿が次々と映し出されその度に黄色い声援が響く。15インチのPCモニタに映し出された波打つペンライトの海は、ただひたすらに美しかった。そしてステージ上のゴンドラが下降しメンバーの姿が現れボルテージMAXになった会場の様子を見て、すごい!すごい!!とわたしはまるで子供のような感想を抱いた。なんかよく分からないけど、画面の向こうにはこの後すごく楽しいことが始まりそうな予感に溢れていた。一曲目はweeeek。楽しそうに歌うメンバーを見て、6人のNEWSもいいなと思った。Cメロで錦戸さんと山Pが向かい合って二人で歌う場面を見て、もうこのシーンを見ることはできないんだなと思った。その時。二人の後ろで満面の笑みを浮かべ輪になってぴょこぴょこ飛び回る残りの4人の姿を見た瞬間、内臓がかき回されるような、それでいて甘酸っぱくてキュンとくるものが胸をさした。とっさにDVDを一時停止した。今になって思えば、決して安くはない金額を出してこのDVDを買っている時点でわたしはもうNEWSのことが好きになっていたのだ。しかしその事実に目を背け、わたしは自分の中に芽生えたその感情を気のせいという言葉でやり過ごそうとさえしていた。しかし、4人の姿がそこにとどめを刺した。まずいな、と思った。これは恋に落ちるんじゃないかな、と思った。もうDVDを見るのはやめた方がいいかもしれないとまで思った。しかしせっかくお勧めしてもらった買ったDVDなのだ。見なければ。心を落ち着かせて再び再生ボタンを押した。後ろの4人の姿は極力見ないように気をつけた。

次に始まったのはBEACH ANGELだ。この曲はジャニヲタの頃すごく好きだった曲で、今でも酔っ払ってカラオケに行ってテンションが上がるとたまにこの曲を歌ったりする。ジャニーズを知らない友達にも無理矢理おしぼりを握らせてサビで回させる。みんな笑いながら付き合ってくれるのでこの曲の盛り上がり具合は一般人にも通用するのだ。ノリノリのメンバーと会場の様子を見て、初めて行ったNEWSのコンサートでもこの曲を歌っていたことを思い出した。確かその時はグッズでバンダナが売られていて、この曲で回すためだけにバンダナを買ったなぁと朧気な記憶を手繰り寄せていた時、わたしは本日二度目の一時停止ボタンを押した。なぜならば、Cメロのソロでカメラに抜かれた増田くんがカメラ目線ではにかんだ笑みをかんばせに浮かべピースサインをしたその瞬間、先ほど感じた甘酸っぱさが胸だけじゃなくわたしの全身を駆け巡ったからだ。わたしの指先は本能的に一時停止ボタンをクリックしていた。

ま…増田くん…その笑顔はまずいですよ…!!!???そのえくぼで今まで何人のいたいけな乙女のハートを射ぬいてきたの!!??あなた自分が爆弾級に可愛い笑顔の持ち主だって知っててカメラに向けて笑ったの!!!???あーもう!!好き!好きだよ増田くん!!!!!!!認める!!負けたわ!!!!!

何と戦ってたかは自分でもよく分からないが、一時停止した画面に映し出された増田くんの笑顔を見てわたしは自分の負けを悟った。心を落ち着かせるために瞳を閉じてみたけれど、瞼の裏側には先程の増田くんの笑顔がいつまでも焼きついていたので、わたしは彼に恋をしてしまったんだと認めざるを得なかった。完敗だった。

わたしは再びエイコちゃんにラインをした。「再生開始10分足らずで増田くんに恋に落ちたわ。負けたわ。アイドルってすごい。今なら増田くんの笑顔で世界が救えそうな気がする」数分後、エイコちゃんからは「こんにちはジャニーズファン○○ちゃん。会いたかった。」そう返ってきた。エイコちゃんはわたしのことを笑わなかった。わたしはそこからひたすらエイコちゃんに向けて増田くんへの想いを語った。エイコちゃんは普段からすごくマイペースで、飲み会や遊びの誘いの連絡をしても二日ぐらい平気で返信を放置したりするのに、この日は違った。ラインを送れば即既読が付き、2~3分の短いスパンで返信がきた。横山くん好きのエイコちゃんから「痩せて更に美しくなったから、最近は横山くん見るとき目を細めてる」という返信がきたときは、わたしも相当だがエイコちゃんもだいぶアホだなと思った。愛すべきアホだ。エイコちゃんは寝るまでわたしの萌えの吐き出しに付き合ってくれた。来月、他の友人も交えて飲みに行く約束をしていたので、その時にNEWSのDVDを貸してもらうことになった。エイコちゃんは優しい子だ。改めて心の底からそう思うと同時に、仲良くなってからの8年の間でこの時のやり取りが最も彼女からのレスポンスが早かったことにジャニーズの持つ不思議な力みたいなものとオタクの熱量を感じた。

結局エイコちゃんとのやり取りに熱が入ってしまい、DVDの続きはまだ見れていない。ただ、冒頭の20分を見ただけでこんなにもNEWSのことが好きになってしまったので、最後まで見終わる頃には自分が燃えカスになってるんじゃないかなとちょっと心配だ。しかしせっかく買ったDVDなのだ。最後まで見なければ。見終わって燃えカスになっていなかったら、またここに感想を記そうと思います。